海外赴任をしている人は、令和元年(2019年)の調査で139万人。
うち、永住者をのぞいた「長期で海外に住んでいるが、いずれ日本に帰ってくると思われる人」は87.6万人となっている。
外務省の統計によれば、過去最高の数値を更新しつづけているようだ。
これから日本企業が海外資本に買収されれば、「来月からタイへ行ってほしい」「中国の本社へ3年来てくれ」といった海外在住案件は、ますます増えていくだろう。
その中で気になるのが「日本在住を前提としたサービス・取引」だ。
たとえば、生命保険や医療保険はどうなるのか?
実際にイギリスへ留学生として4年、前夫の転勤に同行して2年住んだ経験から、これらがどう変化するかをお知らせしたい。
生命保険・医療保険の契約はそのまま残せるが……
結論から言うと、日本滞在時に契約している保険はそのまま継続できる。
たとえば私は当時、日本の社会保険料でカバーできない3割負担分の入院費をすべて払ってもらえる医療保険に入っていた。
仮に日本で10,000円の支払いがあれば、私の条件(当時20代・個人事業主)だと3,000円が自己負担になる。
しかし、3割分を医療保険が支払ってくれるので、入院したら実質無料で医療を受けられるわけだ。
実際にはパジャマやスリッパなどの日用品、コインランドリー、テレビカードなど雑費がかかったり、個室希望ならオプション費用が発生するので「完全無料!」とは言えないが、それでも安心感はあるだろう。
では、海外で入院・手術等が発生した場合はどうか。
大抵の保険会社は、同額を支給してくれる。
特にわかりやすい表記をしてある例を掲載する。
リンク先はすべて海外渡航時に見る用のガイダンスページなので、リスト内に契約している保険会社があれば手続きを進めてもらうだけで完了だ。
だが、それだけで安心できない要素がある。現地の医療費だ。
風邪を引いたら4万円!?海外の医療費に注意
ここからは、私の経験談だ。
私はイギリスで風邪を引いた。
そのまま咳風邪になってしまい、1か月近く治らないので病院に行こうと考えた。
イギリスは公立病院と私立病院があり、公立病院は無料。
ただし、地域によっては1か月待ちもザラだ。
さらに、日本のように「〇〇科」では分かれていない。
1人のかかりつけ医が全部見るので、メンタルを病もうが寄生虫にやられようが全部同じ医師が診る。
悪化して紹介状をもらえないと、専門医には会えないのである。
そこで私は、手っ取り早く内科医の診察を受けられる私立病院へ行った。
私立病院は10割負担になるが、私の”日本での”経験では、無保険でも医療費は1万円ていど。
背に腹は代えられないと、払う覚悟で行った。
ところが、請求額は4万円だった。
ぜんそくを防ぐ咳止め薬と、簡単な診断だけで4万円!
イギリスの10割負担は、日本の何倍にもなったのである。
し・か・も、イギリスの公立病院へ通うためには、国の機関でまずかかりつけ医に空きがある病院を調べ、登録しなければならない。
むろん、手続きはすべて英語。
いきなり英国へ来た日本人は、前提が「内科」「外科」へアクセスできると思っているから、何も知らずに私立へ行ってしまい地獄を見るのではなかろうか。
イギリスはまだ無料の選択肢があるからマシかもしれない。
医療費が高いことで知られる米国では、CTスキャンで1万ドル(2019年12月の為替で109万円)である。
こんなの、日本の医療保険の支払額でどうにかできるわけがない。というわけで、結局現地の医療保険に追加で入る人は多いのではなかろうか。
つまり、日本の保険料は(契約を解除すると積立がリセットされるから)契約を保持しつつも、別で高い現地の医療保険、それも難易度の高い英語の契約書をせっせと読みながら契約する可能性はある。
昨今は駐在員の待遇も下がっているから、なんでもかんでも会社が負担してくれるほど甘くはない。
駐在が決まったら、まず調べるべきは現地の医療費を会社がどうカバーしてくれるかであろう。
良心的な会社なら、医療保険に法人単位で契約してくれる。
一度渡航したら新規契約はできない
次に注意したいのは、新規契約の制限だ。
原則として、渡航中は新しく日本国内の保険を契約できない。
国内に住所がないと、できない契約ごとは多い。
保険等を見直すなら、ぜひ渡航前にしておきたい。
海外渡航者が泣く引き落とし口座のワナ
そして、海外渡航者が必ず泣くのは「銀行引き落とし」である。
生命保険を銀行からの自動引き落としで支払っている人は多いだろう。
だが、海外口座は指定できないことが多い。
つまり、駐在員の給料は現地の銀行口座に振り込まれるにもかかわらず、保険料は日本の銀行口座から引き落とされてしまうのだ。
トイアンナ
これをうっかり忘れて渡航すると、(駐在は1か月の間にビザ申請、健康診断、現地の物件探し、退去手続きなどやることがてんこ盛りなので、生命保険の手続きは漏れやすい)、残高不足で未払いが起きる。
未払いが2度以上起きると、契約が一時停止となるリスクがある。
その後の支払いは……保険の担当者と対面でせねばならないケースが多い。
つまり、生命保険料を支払うために一時帰国することとなるのだ。
緊急時は海外送金サービスを使おう
最も簡単な方法は日本へ一時帰国したタイミングでの手続きだが、どうしても間に合わないなら海外送金で現地の銀行口座から日本へ送付手続きを取ろう。
最も簡単な方法はTransferWise(トランスファーワイズ)を経由すること。
TransferWiseは世界中に銀行口座を保有することで、送金手数料を最安値まで下げたユニコーン・ベンチャーだ。
また、現地の銀行から送金手続きを取ることもできる。
ただし、現地で銀行口座を開設してからの話となるので、緊急時は役に立たないかもしれない。
海外送金を銀行経由で行うには
海外送金を現地の銀行から行うときには、日本国内の振り込みと違って、追加で下記の情報をそろえないといけない。
- SWIFTコード/BICコード(世界中の金融機関を識別しているコード)
検索すると大体出てくるので、初回だけ四苦八苦して検索し、それでもダメなら日本の支店へお電話を。
- IBANコード(SWIFTコードと似た識別コード)
主に欧州・中東で使う識別コード……だが、日本ではIBANを使用しないため、日本への送金時にIBANを採用していないことを説明しないといけない。こIBANがない国なんてあるのかよ? というリアクションをされるため、大抵トラブる。)
日本で海外送金に耐えられる銀行口座を作っておくべし
また、海外から日本間で送金を行うなら、日本から海外への送金も想定しておきたい。
たとえば実家から仕送りをちょっともらうにしても、父母にいきなりの海外送金手続きはハードルが高すぎる。
それなら日本の口座に振り込んでもらい、自分で送金手続きが取れたほうがよい。
海外送金にはTransferWiseが楽だが、万が一サービスが使えないときのために以下項目は必須である。
- 海外送金時の手数料が低い銀行口座を開設しておこう
- 海外からアクセスできるネットバンクの機能はマスト
海外渡航経験者で人気なのは、楽天銀行だ。
大手銀行なら7,000円以上かかることもある海外送金の手数料を2,000~3,000円でできる(国によって中継手数料が変わるので、金額はどの銀行でもブレる)のはありがたい。
何を隠そう、筆者もTransferWiseがトラブったときのルートとして、楽天銀行を開設した。
あとはSBIレミットも知っている人は知っている、格安送金サービスである。
TransferWiseが日系企業でないからと不安なら、こちらがオススメである。
ここで重要なのが、日本に住んでいないと国内の銀行は開設できないこと。
口座開設にはマイナンバーが必要だが、国外居住者はマイナンバーが停止されてしまうためだ。
口座開設は長くて1か月かかるため、海外渡航が決まったら真っ先に手続きを開始したい。
ここまで、海外渡航・駐在時の生命保険の手続きと、それにまつわる銀行手続きをざっと案内した。
これから渡航するみなさんのお役に少しでも立てれば嬉しい。
恋愛・就活ライター
トイアンナ
これまでに受けた人生相談は1,000件以上。
その相談実績と、慶應義塾大学卒業後、外資系企業でマーケターとして活躍した経験をもとに2015年に独立。
恋愛・就活ライターに。
現在は複数のメディアに恋愛コラムや就活のハウツーを説く連載を寄稿する他、就活イベントでの講演・ライター育成講座への登壇・テレビ(NHK他)の取材協力など、幅広く活動する。
書籍:『確実内定』(KADOKAWA)『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)『恋愛障害』(光文社)
過去出演番組:『おしゃべりオジサンとヤバイ女』(テレビ東京系)『最上もがのもがマガ!』『Wの悲喜劇』(AbemaTV)
Twitter:@10anj10