進む若者の「生命保険離れ」かつての契約理由だった葬儀代は無力に(トイアンナ)

若者が生命保険に入らなくなっている。

カカクコムの調査 によると、2009年と比較して生命保険の加入者は10.2%減の89.9%。特に20代から40代で15%以上の減少が見られた。

40代未満の若手を中心に、「生命保険離れ」が進んでいるのだ。

といっても、筆者は「なぜ、生命保険に入らないんだ!」と怒る立場ではない。なぜなら筆者も32歳。しかも独身で、死んだところで残すアテもない。

生命保険に入るメリットなど、全く思いつかない立場の人間だからである。

だが、生命保険が単に「死んだとき、誰かにお金を遺す保険」として広まっていることには疑問もある。

というのも、積立運用型の生命保険は65歳など決まった年齢で、保険会社が増やした資金を受け取れるシステム。

保険でありながら投資としての性質も持つがゆえに、iDeCo (個人型確定拠出年金)のような「老後の資産形成」というメリットも持ちうるからだ。

ではなぜ、その認識が日本では広まっていないか。

筆者は保険販売員の販売戦略に、その課題があるとみている。

保険の販売員は口をそろえて「家族」の話をするが……

生命保険の営業販売員は、口をそろえて家族の話をする。

「30代で結婚したら、家族を養うかもしれない。そのときに自分が死んでしまったら、家族は困りませんか?  子供の学費の不安はないでしょうか。安心のために生命保険に入っておきましょう」というロジックで、私達を生命保険に勧誘する。

だが、今の20~30代にとって、家族を持つということがどれほどのリアリティを持つだろうか。

今の20代は、女性の65%・男性の75%に恋人がいない というのに?

50歳の時点で 結婚を1度もしていない割合を、生涯未婚率と呼ぶ。 50歳を超えてから初婚を迎える可能性は、統計上ほとんどないからだ。

そして、現在の50代ですら4人に1人が生涯未婚 である。

この時代に、果たして保険の販売員が提案する「家族のための生命保険」がどれほど意味を成すだろうか?

保険営業の一手に使われる「葬儀代」しかし……

全ての保険販売員が、家庭を形成する前提で話をするわけではない。いまの若者がどれほど結婚しないか、そもそも恋愛すらしないか……。

リアルなおひとりさま事情は20、30代の保険販売員が自身の経験から理解している。そうすると、自分の保険商品を売るために、次の一手が必要となる。

そして、保険営業の「一手」に使われるのが葬儀代である。

メディアでは葬儀にかかる平均費用が200万円程度 と言われるが、実際にはリンク先のとおりそこまでの費用はかからない

葬儀には地域性があって、ド派手な葬儀をする地域が平均費用を引き上げるからだ。

ただし、葬儀代は現金一括払いが原則だ。

死んでしまうと故人の預金口座は凍結されるため、遺産として相続するまでは口座から引き出せなくなる。

相続額の確定には長いと年単位の期間がかかることもあり、葬儀代をその場で建て替えた遺族は金銭的な苦労をするかもしれない。

そこで保険料があれば、安心して葬儀代を払えるというわけだ。

例えば、自分がいきなり死んでしまったとしよう。独身の場合、実家の関係者に迷惑が及ぶかもしれない。

自分の甥っ子、姪っ子やいとこなどの関係者が無理をして葬儀代を負担することを考えれば、生命保険で葬儀代をあらかじめ受け取れるよう手配するのもアリだ。

しかし、この想定には一つの大きな欠陥がある。それは、若者が、葬儀からも離れているという事実を無視したことだ。

若者は葬儀からも離れている

従来の葬儀は、長年契約したお寺と檀家の関係になってお経をあげてもらうものだった。

お経をあげてもらう費用は明瞭化されていないものの、そこに火葬費用、棺代、お花、食事ななどが入って最終的に100万円から200万円に落ち着くことが多いようだ。

かつては、「代々このお寺さんでお世話になっているから」と慣習の力もあり、本人が強く仏教を信仰していなくても、葬儀は形通り行われることが多かった。

しかし、現在は葬儀に200万円を捻出できる若者は多くない。特に、今の40代にあたる就職氷河期世代においては、4人に1人が 非正規雇用だ。

新卒採用で非正規の職につくと、そのままスキルを詰めず「非正規のループ」にはまる。

さらに世代別の平均月収を調査 したところ、アラフォー世代だけが 5年前よりも平均月収が減少しているという。

非正規雇用のままキャリアを積んでしまい、雇用が不安定なことから、結婚や出産に踏み切れない方も多い。

その状況で「自分の葬儀代」など考える余裕がない、というのが40代の実情だろう。

目の前には ”40代の子供が70代の親を介護する”「7040問題」が立ちふさがる。

そういった背景から、客人を招かず小さい規模で行う家族葬や、火葬だけで済ませる直葬も増えた。

首都圏では葬儀代がすでに100万円まで下がり、価格破壊のあおりを受けて葬儀社の倒産も相次いでいる

この状況では、アラフォー世代も「自分の葬儀代」など意識できる状況ではないだろう。

不安定なキャリアに両親の介護問題。

死後よりも、明日どうやって食べていくかの問題がある。生命保険など、加入している場合ではない。「将来ではなく、いまお金がほしい」のだから。

30~40代の4人に1人は貯蓄がゼロ!

その根拠に、貯蓄額がある。今の30代から40代には、貯蓄がない。4人に1人は貯蓄がゼロ 。100万円以下の方も6割を超える。

保険は、いざという時のためにコツコツと毎月お金を支出するシステムだ。だが、この貯蓄額では「計画的に資産を作ろう」という考えそのものが、成り立たないのではないか。

長期的な資産形成は、ある程度お金のあって初めて考えられる、人生のオプションだからである。

そして本来、生命保険はこういった「短期でお金が必要な ニーズ」にも応えられるはずの商品だ。

生命保険にはお金が返ってこない掛け捨てタイプと、保険会社が預かった積立金で資産運用をして、利益を受け取れるタイプがある。

従来、運用をする保険商品も満期(65歳ごろの解約年齢)になるまでは、お金を受け取れない商品や、誤解する人も多かった。

しかし、実は途中で解約をしても、それまでに出た利益が受け取れる保険商品もある

保険はその人の健康状態や、年齢・性別等で金額が変わるため「これくらい戻ってくる」と一概には言えない。

が、生命保険の中には5年目から利益が出る商品もあることがヒアリングから分かっている。

もし、生命保険が短期解約も想定した売り方をされていれば、今の30~40代も「5年後の不安」を解消するため、生命保険に加入しただろう。

だが、金融庁の指導もあり、公にはあからさまな投資商品として生命保険を販売することはできない

つまり、事情をよく勉強した一部の保険販売員だけが、投資的な性質も把握したうえで生命保険を売り、成果を上げているのだろう。

葬儀代よりも数年後の金策に応える保険が求めらえる

貯蓄が少ない今の30~40代にとって、 保険がいざという時のバックアップになるのは間違いない。

だが、老後の心配をするほどの余裕がない彼らに向けて、より短期でも利益が出る生命保険の商品設計を考えるときが来ているようだ。

保険を設計する職種を「アクチュアリー 」と呼ぶ。

生命保険と言えば、ふだんは販売員ばかりが私たちの目に触れがちである。だが、実際に私たちが望む商品が用意されていなければ、どんなに優れた販売員でも契約は作れない。

まずは、今のニーズに則った生命保険の商品が増えねば、販売員もどうにもできない。

さらに、マスメディアの広告や、窓口の販促ツールによって、若手の心に刺さるような生命保険が認知されねば、生命保険業界の未来は危うい。

商品設計とマーケティングがダメなら、営業がいかに頑張っても無理なのは、メーカーと同じだ。

保険業界は金融商品を扱うため、商品設計や広告の表現にも規制が多くある。

だが、短期でのメリットは減少する若者の生命保険成約件数を回復させるための、残された数少ない道だろう。

販売員が苦肉の策で「葬儀代を出すための生命保険」などを売りさばくようでは、先細りしか見込めない。

あなたが10年以内に死ねば、これくらいのお金が遺族に渡ります。遺族は友人にも設定できます。葬儀代を負担してもらう約束を取り付けた相手と、契約してもいいでしょう。

 

もし、10年後にあなたが生きていれば、我々が運用した〇〇万円があなたに戻ります。ただし、運用リスクは〇〇とXXです。

と、はっきり短期的なメリットやリスクもわかる生命保険が今の30代から40代には望まれている。

それくらい我々は経済的に追い詰められているし、お金が無いのだから。

恋愛・就活ライター

トイアンナ

 

これまでに受けた人生相談は1,000件以上。

その相談実績と、慶應義塾大学卒業後、外資系企業でマーケターとして活躍した経験をもとに2015年に独立。

恋愛・就活ライターに。

現在は複数のメディアに恋愛コラムや就活のハウツーを説く連載を寄稿する他、就活イベントでの講演・ライター育成講座への登壇・テレビ(NHK他)の取材協力など、幅広く活動する。

書籍:確実内定』(KADOKAWA)『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)『恋愛障害』(光文社

過去出演番組:『おしゃべりオジサンとヤバイ女』(テレビ東京系)『最上もがのもがマガ!』『Wの悲喜劇』(AbemaTV

Twitter@10anj10

トイアンナ絶対毒親に相続させないための完全マニュアル。私が実際に準備して分かった2つのこと(トイアンナ) 社会保険、国民健康保険「未加入」のリスク「うっかり」で医療費10割負担!国民健康保険に入り忘れるリスク(トイアンナ) 保険の営業員に聞く「医療保険に入っても金ドブな人」の特徴(トイアンナ) 犬がホッケを丸飲みして20万円!?ペット医療保険に入らぬリスク犬がホッケを丸飲みして20万円!?ペット医療保険に入らぬリスク(トイアンナ)