「老後に2,000万円不足する問題」が政府からポロリと漏れて数か月。
そのインパクトから、金策を考える20~30代が増えた。
iDeCo、つみたてNISA、さらに投資講座まで……窓口が盛況だという話を聞いては驚かされている。
iDeCoなど、「何か分からない」と避けられるだけでなく、準備に最大数か月かかることから「面倒」と避けられてきたというのに。
政府もいい仕事をしてくれた。
そして、投資商品の一環として注目されているのが保険だ。
特に退職後まとまったお金を受け取れる積立の保険商品が、人気を集めている。
何を隠そう、筆者も積立型の生命保険を契約した人間だ。
だが、さまざまな投資商品がある中で、生命保険を老後資金づくりの選択肢にするのは後のほうでよい。
まずやるべきことが、たくさんあるからだ。
生命保険は投資商品としては魅力が少ない
「生命保険」と名がつくとおり、生命保険が売っているのは「いざというときの保障」である。
自分が死んだとき、家族が暮らしていけるように……葬儀代くらいは賄えるように……といった願いを叶えるのが、生命保険である。
生命保険の契約によっては、退職時に生命保険会社が運用した積立額を受け取れるものがある。
そのため、実質的な年金代わりに契約する人が急増した。
だが、「老後資金」としての生命保険は、あまり魅力的とは言えないかもしれない。
商品にもよるが、生命保険は最大でも年利3%程度で運用されることが多い。
つまり、100万円が1年で103万円になる利率だ。
3%増えるなら貯蓄よりも魅力的に映るだろうが、実際にはこれ以上の成果を出している投資信託がいくらでもある。
生命保険より手堅いインデックス投資の方がリターンは大きい
私の周りで人気の商品だとeMaxis Slimシリーズに含まれる多くの商品が、昨年だけで年5%以上の利率をたたき出している。
本来、リターンが大きい投資はそれだけリスク(元本から減ってしまうおそれ)も抱えるので、「リターンが大きければ大きいほどいい投資」とはとても言えない。
だが、eMaxis Slimを始めとする商品は「インデックス投資」だ。
インデックス投資とは、日経平均やダウ平均のような「株価の平均値となっている指数(=インデックス)」と同じ値動きを目指すよう設計された投資のこと。
たとえば、あなたが日経平均のインデックス投資をしているとしよう。
日経平均が年に5%上がれば、あなたの投資額も年利5%になる。(※実際には、ここから取引手数料などが差し引かれた額になる)
インデックスは長期的に見ると上がっていくため、長年積み立てるならインデックス投資で長期的に……という投資家も少なくない。
投資家が毎日トレード(取引)をしているのは、もっと高いリターンを狙って、短期取引をしているからだ。
インデックス投資は「堅実だが、面白みがない」投資方法なのである。
投資家から「堅実扱い」を受けるインデックス投資ですら年利5%をたたき出すにも関わらず、わざわざ年利3%しかリターンのない保険商品を買うか?というポイントについて、まずはお知らせしておきたい。
インデックス投資はiDeCoと掛け合わせられる
そして、インデックス投資ならiDeCoの制度を利用できる。
iDeCoとは、個人で積み立てられる年金のこと。年金となる性質上、入れたお金が一定の年齢になるまで引き出せないデメリットがある。だが、iDeCoにかけたお金は全額所得税から控除される。
節税を考えるなら、まずはiDeCoで手堅くインデックス投資をするよう、多くのアドバイザーが勧めてくるだろう。
対して、保険商品はiDeCoの対象外だ。
生命保険料控除はあるが、所得税:40,000円、住民税:35,000円が限度額。
仮に生命保険料で月1万円を支払っていたら、やすやすと限度額を超えてしまうだろう。
保険の営業販売ですら「まずはiDeCoを限度額まで利用して、そこで老後の資金を作ってください。その後に投資できる金額で、保険商品を考えてください」とアドバイスするくらいである。
いきなり多額の積立型生命保険に手を出して「これで老後は安心だ」と一息つくのは、大変もったいない。
つみたてNISAなら現金化もスピーディ
さらに、「つみたてNISA」もある。
つみたてNISAとは、年40万円までの投資で得た利益を、非課税にする制度だ。
つみたてNISA専用の口座を証券会社で作れば、取引は自由。
すぐに現金化できるため、iDeCoよりも楽に資金を作れる。
日本では投資から得た利益に対して、通常20.315%の税金がかかるが、つみたてNISAならこれがゼロになるのは、大変お得だ。
月に3.3万円を自動で積み立てる投資プランができれば、あとはNISA口座でやりくりするだけ。
iDeCoに比べて開設も楽なので、始めやすさも魅力である。
生命保険が与えてくれるものは「手軽さ」「安心感」
では、生命保険は無意味で、契約するだけムダなのか?
それもNOだ。
iDeCo、つみたてNISAにはいずれも限度額がある。
- iDeCoは会社員で最大2.3万円/月まで
- つみたてNISAは月3.3万円/月まで
そうなると、月5.6万円を超える資産形成には使えない。
私のように、一家の家計を1人が担っている場合、不足する老後資金は2,000万円×2名で4,000万円になる。
これでは月に5.6万円貯めても赤字がいいところ。
4,000万円は月11~12万円の貯蓄を30年崩さずに続けて、ようやく溜まる額だ。
DINKSなら百歩譲って頑張れるとしても、子育てや急病を考えるとリアルな数字ではない。
iDeCo+つみたてNISAの月5.6万円を老後までに月11万円にしたければ、無茶なリスクを取った金融商品を買わなければならない。
だが、デイトレードをするほどの勇気はないし、何より本業が忙しい……。
そこで、保険商品は「手軽さ」を発揮してくれる。
保険商品は、契約までの楽さが投資銀行の比ではない。
「とにかく心の平穏を手に入れたい」タイプにとって、保険商品はとてもありがたいだろう。
最近、投資銀行も窓口業務のないネット口座が増えた。
口座を開設しようとして、何から手を付ければいいか途方にくれた方も多かったはずだ。
その点、保険会社の人間はあなたの手となり足となって、資産形成の手順を踏んでくれる。
保険「だけ」で老後の資産形成をするのはリスクでしかないが、iDeCo・つみたてNISAの後に考える「3番目」の手段としてこれほど楽な手段もない。
生命保険が手軽なのは遺族にとっても同じ
そして、生命保険が「誰にとって手軽か」も考えてほしい。
まず、契約主である自分にとっても、生命保険はラクだろう。
なにしろ、口座引き落とし設定さえ完了すればあとは運用を勝手にしてくれるのだから。
自分から書類を手に入れ、積極的に運用せねばならないつみたてNISAとは段違いだ。
だが、さらに追加で「遺族が手続きをするときの楽さ」もある。
生命保険の請求手続きは、医療保険と違ってシンプルになりやすい。
医療保険では、「どの程度のケガか」で揉めやすいが、生命保険は「生きてる・死んでる」なので判断もスピーディだからだ。(※生命保険に生死以外で付属しやすい、高度障害で受給するケースを除く)
受給手続きもマニュアルがしっかりあり、担当スタッフが丁寧に電話対応してくれる。
これは保険会社ならではだろう。
ある資産家が、「海外の〇〇投資銀行で投資信託を購入したが、母が受取方法を知らず相続で大変だった」と漏らしたことがある。
いくら年利が優れた投資商品でも、受取に手間がかかれば遺族の「負担」となりえるのだ。
特にパートナーが死去するときは、伴侶も老いていることが多い。
その状況で煩雑な請求手続きは、心が折れるだろう。
生命保険は老後の資産形成として選ぶ「1番目の選択肢」にはなりえない。
ましてや、貯金の全額を生命保険に放り込むなどありえない。
だが、つみたてNISAやiDeCoなどの節税が終わったあと、さらに何かを積み立てられるなら……生命保険は極めて現実的な選択肢だ。
特に、忙しい人や、受取も含めて簡単にしたい方にとっては魅力的な選択肢となるだろう。
特に投資を勉強した方ほど、最後の「楽さ」を無視する傾向にある。
まずはどの投資をしていきたいか、遺族になりうる方と話し合ってほしい。
そして2人が合意した順番で、老後の資産を作っていこう。
最後に、月3~5万円で現金貯蓄も忘れずに。
ある日突然キャッシュが必要になる可能性を忘れて金融商品に全額投資するのは、決して賢いとは言えないからだ。
恋愛・就活ライター
トイアンナ
これまでに受けた人生相談は1,000件以上。
その相談実績と、慶應義塾大学卒業後、外資系企業でマーケターとして活躍した経験をもとに2015年に独立。
恋愛・就活ライターに。
現在は複数のメディアに恋愛コラムや就活のハウツーを説く連載を寄稿する他、就活イベントでの講演・ライター育成講座への登壇・テレビ(NHK他)の取材協力など、幅広く活動する。
書籍:『確実内定』(KADOKAWA)『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)『恋愛障害』(光文社)
過去出演番組:『おしゃべりオジサンとヤバイ女』(テレビ東京系)『最上もがのもがマガ!』『Wの悲喜劇』(AbemaTV)
Twitter:@10anj10