自殺したい人へ、大事な生命保険のはなし(トイアンナ)

自殺したい人へ、大事な生命保険のはなし

死にたい。と、1度でも思ったら、生命保険について考えてほしい。

……なんてことを言うと、気が狂ったと思われるかもしれない。

だが、死ぬなら、誰かに資産や借金を遺す可能性がある

私は、あなたの死にたい気持ちを止める権利も、力もない。

けれど、死んだあとどうなるかは、調べておいてもいいんじゃないか。

「遺書を書くときの参考にしよう」くらいの気持ちで、資料としてご覧いただきたい。

自殺したいあなたへ。生命保険、入ってますか?

まず、あなたはすでに生命保険に入っているだろうか? 

自分で「生命保険」という名前の書類にサインしたことがなくても、人は意外と無意識のまま、生命保険に入っていることがある。

最も多いのは、クレジットカードに付帯する保険だ。

年会費がかかるクレジットカードのほとんどには、旅行中の「いざというとき」に対応する保険がついている。

国内・海外旅行中にかかった医療費や、手術・入院費用をこれで補填できるというわけだ。

出産は適応外など保障は限定されるが、損害賠償まで一部保障されるカードもあり、調べてみると奥が深い。

が、我々は生命保険・医療保険のグレードでクレジットカードを選ぶことがほとんどない。

そのため、普段は「クレジットカードに保険が付帯している」ことすら忘れて生活しているはずだ。

他にも、期間限定キャンペーンとして無料で一定期間入れる保険もある。

私はいっとき、無料で楽天のがん保険に入ったり、ペット保険の1か月限定無料サービスに加入したりした。

こういった無料期間に試した保険は、加入していても忘れがちだ

そんなわけで、我々は普段から「気づけば保険に入っている」ことも珍しくないのである。

ここで、本題に移ろう。

自殺をする場合、旅行先での自殺はままある。

その手の名所で有名になってしまった青木ヶ原樹海東尋坊など、わざわざ旅先で死を選ぶ人は少なくない。

自宅が事故物件になることを気にかけて、わざわざ遠くへ行く人もいる。

また、家族との同居なら自殺を完遂できない可能性もある。

自殺の原因で「経済問題」は3位

家がそもそも無いくらいの貧困状態から、最後の旅費を握りしめて死を選ぶ人もいるだろう。

特に自殺したい理由に経済問題がからむなら、生命保険は脳裏にチラつくのではないか。

借金を家族に背負わせるくらいなら……と、生命保険での返済を考える方もいるだろう。

確認してみること
  1. 自分がクレジットカードなども含め、保険に入っているか
  2. その保険が自殺をカバーする保険か

だから、まずは上記のことを一度確認してもいい。

お問い合わせ窓口へ問い合わせるとロクなことにはならないので、契約時にもらった分厚いリーフレットを掘り返すこと。

生命保険で自殺が適用されるのは契約から数年後

では、自殺をしたら保険金を遺族が受け取れるのか? 

前提として、生命保険で自殺はカバーしなくてもよいことになっている。

わが国の保険法 51 条 1 号は、死亡保険契約の保険者は、「被保険者が自殺をしたとき」には、保険給付を行う責任を負わない、と規定している(全期間免責)。

なお、生命保険約款は、これを変更し、責任開始(復活)日から 1 年ないし 3 年以内の自殺に限って死亡保険金を支払わない旨、規定している(免責期間の設定)。

出典:生命保険契約・自殺免責にかかる法制と解釈

もっとわかりやすく言うと、「法律では、契約後に自殺で亡くなった場合は保険金の給付はしなくていいということになっている。だが、保険会社のルールでは契約後1~3年を過ぎてからの自殺は、他の死因と同じように死亡保険金を払うことにしている」のだ。

ただし、契約時に申告する書類でうつ病を隠していたり、自殺未遂でICUに担ぎ込まれた過去を申告しなかったことがバレると、その時点で保険金の支払いは取り消しになる。

逆に、契約時にこれらの過去を正直に申告していれば、「精神疾患による死亡では保険金が払われませんよ」と免責事項をつけられてからの契約となることが多い。

ここまでの条件をまとめると、「自殺でも保険金が支払われる条件」は下の3点を満たすものになる。

自殺でも保険金が払われる条件
  1. 契約から1~3年たっており、保険会社の「自殺による免責」期間を過ぎた
  2. メンタルの病気を保険金給付から除外されていない
  3. メンタルの病気で診断が下った方で、その過去を保険会社に隠していない

これを見て、「結構厳しいな」と思った方が多いだろう。

当たり前だが、死ぬリスクが高い人を保険契約させれば、保険会社は商売あがったりだ。

最初から「重度の鬱です、年に3回は自殺未遂をしています」という人は、契約時点でペケがつくのである。

ただし、例外はある。

健康状態を申告しなくても入れる保険もあるからだ。

「引受基準緩和型」または「無選択型保険」というタイプなら、持病があっても入れたり、申告不要だったりする。

(ただし、その分保険料が割高になるため、決して「お得」という話ではない。)

バレるのは生命保険料の受取申請時

ちょっと機転が利く人なら、ここで「でも、なぜ自己申告しなかったメンタルの通院歴がバレるんだ?」と考えるだろう。

別に保険会社は裏ルートであなたの通院歴を把握しているわけではない。

ただし、死ぬのが契約から2年以内だと「早すぎて怪しい」として、通院歴を後追いで調査することはあると、保険会社の社員が教えてくれた。

自己申告にウソが入ることを通称「コクハン(告知義務違反)」と呼び、バレれば一発で支払いが止まる。

それをよく知っていたのが、生命保険金めあてに富裕層の男性と交際し、次々に殺していた木嶋佳苗である。

木嶋佳苗は、付き合った男性を自殺に見せかけて殺し、生命保険金を受け取っていた。

しかし、あまりにハイペースで殺してしまうと、先ほどの調査が入る。

それではせっかく殺したのに、元も子もない。

そこで木嶋佳苗は、きっちり2年置いてから次の殺人を実行した。

おそらく、保険金の告知義務違反調査が入りやすい「2年ルール」を気にしたのであろう。

同じく、「和歌山カレー事件」でも犯人は元保険販売員だった。

犯人の母親が被害者だったが、事件が起きたのは生命保険の加入から「2年と1週間後」だったそうである。

保険金殺人者は、2年ルールをよく知っている

ただし、告知義務違反の調査は契約後2年以降でも「怪しい」と思われれば入る。

木嶋佳苗も2009年に相次いで殺人を行って、同年に逮捕されている。

おそらく、最初は保険会社の調査が入り、クロだと判断されて警察に情報提供したのだろう。

いくら契約から2年以上たっていても、相次ぐ保険金受給履歴、それも親族ではない人間の受取はそれだけで怪しいからだ。

「では、自殺とさえバレなければ受け取れるんじゃ……?」と思うかもしれない。

だが、あなたの死体が見つかり、死因が不明なままだと「不審死」扱いとなるため、警察の確認が入る。

遺族の同意を得て行政解剖されれば、自殺だと特定されるだろう。

……といった事情から、バレないように生命保険を遺族に渡して自殺なんて考えるのは、徒労に終わる可能性が高い

生命保険会社がここまで厳しい理由

ではなぜ、生命保険会社はかたくなに自殺で保険金を支払わないのか。そこには大きく2つの理由がある。

保険金目的の「自殺に見せかけた殺人」を防ぐため

一つ目は、木嶋佳苗のように「自殺に偽装した殺人」を防ぐためだ。

木嶋佳苗ほど積極的な殺人鬼はそういないが、闇金のカタに生命保険をちらつかせるケースは、昔からよく知られているだろう。

もし、自殺をしたらすぐに保険金が支払われるのであれば「生命保険に入れ。そしたら金を貸してやる」なんていう、最初から命をカタにかける闇金もはびこってしまう

そのため、保険会社ではそもそも親族以外の保険金受取を許可しないところも増えた

親族ではない同性のパートナーや内縁の妻・夫を受取人にできる保険商品でも、長期間パートナーでいる証拠を提出する必要があるなど、審査が厳格になっている。

そうすることで、保険金詐欺・殺人を防ぐねらいがあるのだ。

自殺されては、保険会社の利益にならない

もう一つの理由は、安易な自殺を止めるためだ。

生命保険会社にとってもっともありがたいのは、客が健康に生き延びて、保険金をびた一文払わずに済むことだ

仮に、顧客が次々に自殺してしまっては、支払うばかりで保険会社として成立しない。

だからこそ、自殺に対してはいくつもの条件を課すことで、利益を守っているのである。

というわけで、生命保険で誰かに資産を遺したい、あるいは借金を帳消しにして遺族を安心させたいなら……まず生命保険に入ってから3年は生きてほしい。

保険金のために自殺を諦めるなんてバカバカしいが、今死んだら保険金すら入らない

生命保険はかける額にもよるが、自分が生き延びれば65歳で1千万円以上受け取れるものもある。

そう思ったら、なんとか役所にでも駆け込んで今日のご飯と宿を頼ったり、ボランティア団体に掛け合ってみたりしてみてくれないだろうか。

最後の段落は、私の身勝手な祈りである。

恋愛・就活ライター

トイアンナ

 

これまでに受けた人生相談は1,000件以上。

その相談実績と、慶應義塾大学卒業後、外資系企業でマーケターとして活躍した経験をもとに2015年に独立。

恋愛・就活ライターに。

現在は複数のメディアに恋愛コラムや就活のハウツーを説く連載を寄稿する他、就活イベントでの講演・ライター育成講座への登壇・テレビ(NHK他)の取材協力など、幅広く活動する。

書籍:確実内定』(KADOKAWA)『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)『恋愛障害』(光文社

過去出演番組:『おしゃべりオジサンとヤバイ女』(テレビ東京系)『最上もがのもがマガ!』『Wの悲喜劇』(AbemaTV

Twitter@10anj10

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