生命保険には、「自分が相続させたい人へ、確実にお金を遺す」という大事な機能がある。
遺言に書いただけでは日本の法律上、100%の相続が確約できない。
生命保険で決めた額を渡せるならば……と契約する方も多いのだ。
だが、生命保険では保険金めあての殺人を防ぐため、保険金の受取人にできる方には限りがある。
具体的には、親族だ。
たとえば「息子に1,000万円」を渡すことはできるが、「友達のAさんに1,000万円」を渡せる保険会社はそう多くないのである。
殺人事件は親族間で起きるものが半数以上なのに、なんて非合理的な……と思うが、ここで一番しんどいのがLGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア・クエスチョニングなどの性的マイノリティ)である。
同性婚が認められていないいま、ゲイ・レズビアンのパートナーが確実な資産を渡せないとなれば、生命保険に頼る方も多い。
そこで、前提となる遺言書の扱いと、LGBTQが受取人としてパートナーを指定できる生命保険会社をご案内したい。
遺言で100%遺産相続ができないと知っていますか
前提として、遺言書に書いただけでは100%の遺産相続を実現できない。
たとえばあなたが、「息子には1億円、妻には3,000万円、娘には0円」の遺産相続をしたいとする。
そこであなたは遺言書を書いた。
それもちゃんと法的に認められた遺言書を作り、法律の専門家が立ち会う公証役場で手続きまでした。
だが、実際には遺留分といって、兄弟姉妹以外の法定相続人ならある程度の遺産を請求できる。
「遺言で0円とあったから0円」とはならないのだ。
なんなら、実家は同性婚に反対で絶縁状態なんてケースもあるだろう。
そんな親に遺留分を請求されたらと思うだけで、歯がゆい思いをする方もいる。
唯一の解決策だったのが、養子縁組だった。
片方を親、もう片方を子として養子になることで、相続を成立させるのだ。
だが、(国が想定した使い方とは異なるため)審査に横やりが入る事例もある。
また、養子縁組を一度してしまえば、同性婚が認められても親子間のため結婚はできなくなる。
養子になればオッケー、なんて世界観ではないのだ。
だから、遺言書を残してもLGBTQは安心できないのである。
確実な遺産相続としての生命保険
そこで、確実な遺産相続として生命保険が視野に入ってくる。
生命保険には「受取人以外に渡さずに済む」という大きなメリットがある。
確実に1億円を同性パートナーへ渡したいなら、そういう生命保険契約を結べばいい。
月額費用もかさむだろうが、望んだ遺産は届けられるだろう。
ただし、あまりに遺産の総額と生命保険の受取金額にギャップがある場合は親族から請求を起こすこともできるようなので、あくまで自分の資産総額と調和のとれる額にしよう。
判例を見ると、総資産の6割を超える受取額を生命保険で指定すると、一般的な相続と同じく遺留分に含まれる可能性があるようだ。
同性パートナーを保険受取人にできる企業一覧
そこで生命保険……といいたいところだが、同性パートナーの保険金受取を表明している企業と、そうでないところがある。
そこで、これまでに公で同性パートナーの受取を可と表明した企業を一覧にした。
リンク先は、プレスリリースやソースとなった公の発表だ。
また、それぞれの保険商品の良しあしは一切評価せず、順不同で並べた。
あくまで「同性パートナーを受取指定できる会社」としてだけ頭に入れていただき、どの保険会社がいいかは別途判断していただきたい。
ここまで多くの生命保険会社がLGBTQフレンドリーになったのは、東京都渋谷区の同性パートナーシップ証明書が認められたことが大きい。
これまで日本では、LGBTQを弾圧するというよりも「社会からなかったものとする」無視による差別が大きかった。
普段過ごしている人のうち、10人に1人がLGBTQだと多数派は思いもよらなかったのである。
それが同性パートナーシップが認められたことで「そういえば、LGBTQって普通にいるんだな」と認知度が高まり、慌てて保険会社が動いたというところだろう。
もちろん今も言葉による差別、雇用差別など残る問題は多いが、あまりにあっけなく生命保険で受取人指定する門戸が開いたので、「対応が遅い」と怒りながらも、スピード感に驚いていたマイノリティも周りに多かったように思われる。
認知度はわずか3割!同性パートナー可の生命保険
そして、これらの生命保険が同性パートナーを受取人に指定できることを知っている当事者はわずか33.7%しかいない。
その理由は、告知不足だろう。
生命保険会社が制度を導入したのはいいものの、広告宣伝をする猶予もなかった。
さらには、渋谷区で同性パートナーシップ証明書が出てからあれよあれよと多数の企業が同性パートナーの受取を認定したため、「同性パートナーを受取人にできるのは弊社だけ!」というアピールもできなかったのだ。
そんなわけで、同性パートナーを持つ方からの恋愛相談では「遺産相続は養子縁組しかないんでしょうか」と思い詰めたお話をいただくことが多い。
トイアンナ
日本で制度を改革できればそれに越したことはないのですが……現実的な第三の選択肢として、海外移住という手段もありえます。
国籍取得ではなく、永住権ならハードルが低い国もあります。
もし日本で暮らすことにこだわりがなければ、一度調べてみるのはありかもしれません。
というと、びっくりされる。
相続について詳しくは弁護士に相談していただくことになりますが、生命保険は「確実に相手へ残せる」意味では活用できるかもしれません(※額によります)。
生命保険だけではない。
住宅ローンも楽天やみずほが同性パートナーでの契約を可能にしている。
(LGBTQのカップルが不動産を購入する場合は、相続が保険と違ってややこしくなるので、死亡後の事例も調べてからのご契約をおすすめしたい)。
わずかではあるが、同性パートナーの隠れた需要に企業も気づき始めている。
金になれば企業は動くから、この国の1/10の層が切り開けるなら、さらに同性パートナーでの契約を可にする企業は増えていくだろう。
特にレズビアンカップルは資産形成の話し合いを
この話が特に重要となるのは、レズビアンカップルだ。
日本では男女の賃金差が大きく、レズビアンカップル vs ゲイカップルでは経済格差が生まれる。
調査では、30代男性の平均年収は487万円、女性は382万円。
つまり、ゲイとレズビアンの共働きカップルを比較すると、年210万円ものギャップがあるのだ。
どちらが老後を心配すべきかは、言うまでもない。
賃金の男女格差はこれから是正に向けて動いていくにしても、どちらかが倒れてもやっていけるような暮らしを続けるためには、生命保険のみならずさまざまな対策を練っておくべきだろう。
同性パートナーは、遺族年金を受け取れない。(現在、裁判になっている)
また、企業が家族向けの福利厚生を用意しても「家族」として認められない可能性もある。
LGBTQに対する福利厚生への平等は、積水ハウス、電通、ぐるなびなど一部大手企業に限られている。
住宅ローンの審査が下りても、今度は大家が偏見をぶつけてくるかもしれない。
生きているだけでなぜこんな目に……というのが同性パートナーで、話を聞くたびにやっていられない気持ちになる。
だが、現実との折り合いをつけるなら、今できるすべての可能性を紹介したい。
現状を変えるために声をあげてもいい。
(あげなくてもいい。カミングアウトは義務ではない。アクティビストになるのも、LGBTQの権利であって”すべきこと”ではない)
生命保険で相手へ確実な資産を残したり、老後に同性パートナ-と移住できる場所の候補を見てもいい。
養子縁組も(将来、同性婚する可能性を奪う不備があるため)筆者は好きではないが、大事な選択肢のひとつだろう。
LGBTQだから……と諦めず、最新の情報を常に仕入れていこう。
大事なパートナーを守るために。
そして自分の資産を奪われないために。
恋愛・就活ライター
トイアンナ
これまでに受けた人生相談は1,000件以上。
その相談実績と、慶應義塾大学卒業後、外資系企業でマーケターとして活躍した経験をもとに2015年に独立。
恋愛・就活ライターに。
現在は複数のメディアに恋愛コラムや就活のハウツーを説く連載を寄稿する他、就活イベントでの講演・ライター育成講座への登壇・テレビ(NHK他)の取材協力など、幅広く活動する。
書籍:『確実内定』(KADOKAWA)『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)『恋愛障害』(光文社)
過去出演番組:『おしゃべりオジサンとヤバイ女』(テレビ東京系)『最上もがのもがマガ!』『Wの悲喜劇』(AbemaTV)
Twitter:@10anj10