「保険の営業」という業務に抵抗を感じる人も多いだろう。
保険の営業員といえば、オフィス外に待ち構え「何とかして案件を取ろう」と、こちらにとって不利になる保険商品も売りつけるイメージが抱かれていた。
かんぽ生命の不正 により、さらにイメージは悪化してしまったように思われる。
現在判明しているだけで、「認知症の老人へ高額の保険をかける」「同じ保険を何件もかけさせる」「 病気が発覚してから契約を解除し、保険料を支払わない」など明らかになっている不正は18万件 。
かんぽ生命は、当然ながら事態を重く見て、郵便局が受託販売する「三井住友海上プライマリー生命」の変額年金保険、「住友生命の医療保険」等、かんぽ生命以外の商品も販売自粛することとなった。
しかし、当の保険の営業員は何を感じているのだろうか?
匿名を条件に、大手日系生命保険会社に勤めていた販売員のAさんからお話を伺った。
お金をドブにすてる契約をする客は多い
Aさん
率直に申し上げて、お金が無駄になる保険契約を締結されているお客様は多いですね。
特に医療保険の分野で、お金をドブに捨てるお客様は多いです。
それがしんどくて、仕事を辞めた面もありますね。
と言っても、(不正のあった事例のような)詐欺の被害ってことじゃありません。
そんなに対策を取らなくても、十分暮らしていける人もいる、という意味です。
生命保険はまだ資産形成として意味があります。ですが、医療保険に関しては、いらないお客様も多いのではないでしょうか。
トイアンナ
病院嫌いで、痛みを限界まで堪えてしまう人
Aさん
まずは、病院が嫌いな人ですね。
病院が嫌いな人は、体が痛くてもギリギリまで通院せず、我慢してしまいますよね。
それに、いざ入院しても、半ば無理に退院してしまうこともあります。
医療保険は通院や入院の費用に対する保障ですから、病院へ行かない人にとっては何の意味もありません。
トイアンナ
Aさん
将来が不安だからと、やみくもに契約してしまう人もいます。
ですが、まずは自分が普段から風邪を引いたり、腰が痛いくらいの症状で病院に通うタイプかを考えてください。
特に、重い症状でも「家で寝る」ことを選択してしまう人は、医療保険をかけても無意味になることが少なくありません。
会社から補助が出る人
Aさん
会社の補助がどれくらい出るかを正確に把握している人は結構少ないです。
意外と医療費の補助があったり、入院や継続的な通院が必要なときは、 給料の数分の1を負担する会社もあります。
まずは、会社がいざというときに、どれくらい補助を出してくれるかを調べてから医療保険を検討した方がいいんじゃないかな……
と、営業をしている私たちも思っています。
トイアンナ
Aさん
そうなんです。健康な時はあまり考えないかもしれませんが、健康保険でも私たちは十分守られているんです。
共働きで生活が支えられる人
Aさん
また、共働きで生活を支えている人は、ここまでに挙げた補助だけでも暮らせることが少なくありません。
トイアンナ
Aさん
はい。小さいお子さんがいるなどやむを得ない状況を除けば、一度専業主婦になられた方でも、再就職するケースはあります。
「傷病手当金と再就職のお金、2つあればなんとかやっていける」というご家庭も少なくないのです。
貯蓄が得意な人
Aさん
入院時に自己負担金額がどれぐらい必要かご存知ですか?
実は、 平均すると22万円 で済むんです。
実際にはこれ以外にもパジャマやスリッパなどの衣類、コインランドリー、ご家族の交通費、テレビカード代など雑費がかかってきますが、 それでも膨大な金額ではないと、感じたんじゃないでしょうか?
これくらいの貯金を家族分できる方であれば、多額の医療保険はいらないと思っています。
トイアンナ
かなり入院しないと、もとが取れないですね。
高額療養費制度 を使えば、人にもよりますが月に最大8万円程度の自己負担で済むとも聞いています。
Aさん
不健康で保険金を貰うより、「保険料払いすぎちゃった~」と、もとが取れない人生の方が、いいと思いますけどね。
親の資産がある人
Aさん
保険を契約する時に、親からどれくらいの遺産を受け取れるか、あるいはご存命中でも「いざという時のお金を借りられそうか」と聞かずに契約するのはもったいないですね。
トイアンナ
Aさん
極端な話ですが、資産が5000万円くらい親御さんにあるなら、医療保険を組む必要はないかと思います。
その場合、私がお客様に勧めるのは、年齢や性別によってリスクの高い疾病だけをカバーするものですね。
逆に医療保険が必要になるのは、こういう人
トイアンナ
Aさん
その通りです。一つずつ条件を潰していくと……。
- 病院にすぐ通う人
- 会社から補助が出ない人
- 家族を養っている人
- 貯蓄が苦手な人
- 親と仲が悪い人
一つずつ順を追って見ていきましょう。
まず、病院にすぐ通う人。 すぐに病気が見つかるメリットもありますが、一方で人生の通院や入院の期間は伸びるかもしれません。
そして、会社から補助が出ないか、フリーランスや自営業で働いていて、病気になっても国や行政の支援にしか頼れない人は、保険に入ったほうがいいでしょうね。
例えば、地元のスーパーマーケットを経営されているとか、お習い事の先生とかです。
フリーランスのエンジニアやデザイナーなど、ご自身の力で仕事をされている人も当てはまります。
あとは、お水や風俗業界で働いている方も、いざというときの保障が限られます。
トイアンナ
Aさん
はい……。
そして次に、家族を養われている方。
いざというとき、自分は会社から補助がもらえるかもしれません。
しかし、ご家族が路頭に迷うリスクはあります。
特にお子さんがいる場合は、学費も追加でかかるため「自分の病気のせいで子供が進学を諦める」ダブルの苦痛を味わう可能性があります。
そして、貯蓄が苦手な人。
貯蓄が苦手な方は、毎月引き落とされるお金で資産を作る方が便利です。
保険が最適な商品かは私から言えませんが、自動引き落としで資産を貯めるような仕組みは早く作っておくようお勧めしたいですね。
最後に、親御さんと仲が悪い方。
医療費が長期的にかかったとき、お金を親から借りられませんから。
もしくは、親御さんが資産を持っておらず医療費を自分の分までは賄えなさそう……
もっと言っちゃうと、親御さんに借金があって、親の医療費まで負担する可能性のある方です。
こういった方は貯金があっても、追加で医療保険や生命保険も検討するようお勧めしています。
トイアンナ
Aさん
それは、医療保険に入ることをおすすめしちゃいますね。
前職の販売員を紹介しましょうか?
医療保険は心の保険
とはいえ、私のようにズボラなフリーランスを除けば、多くの人には医療保険がいらないようい思われる。それなのになぜ、医療保険がここまで広まっているのか?
Aさん
医療保険で買っているのは、実際の通院・入院・手術費用ではなく、 安心感……
「心の保険」だと考えています。
先ほど、入院の自己負担金額が平均22万円▲だとお伝えしましたよね。
でも、平均はあくまで平均。長く入院することがあれば、会社の退職もありえます。
以前と同じ条件で働けず、非正規になるかもしれません。
そういったときに、「いざというときも、大丈夫だ」と思える”心の保険”がかかっていることを、悪いことだと思いません。
ただ、やっぱり先ほどの「医療保険がいらない人」の条件をご覧いただいて、「そこまで不安じゃないな」と思う方は、医療保険よりも学資保険や生命保険を優先された方がいいかなあ、と思っています。
トイアンナ
むすびに
Aさんは退職後、医療保険を契約している。ただし、金額は最低限に抑えているようだ。
保険はイチかゼロではない。
自分が病院好きかどうかや、資産状況、親との関係、そしてパートナーの働き方を見て「やる・やらない」「契約するにしても、どれくらい払うか」の両方を慎重に考えていきたい。
なにしろ、解約したら掛け捨てタイプの積み立て金は、原則として戻ってこないのだから。
恋愛・就活ライター
トイアンナ
これまでに受けた人生相談は1,000件以上。
その相談実績と、慶應義塾大学卒業後、外資系企業でマーケターとして活躍した経験をもとに2015年に独立。
恋愛・就活ライターに。
現在は複数のメディアに恋愛コラムや就活のハウツーを説く連載を寄稿する他、就活イベントでの講演・ライター育成講座への登壇・テレビ(NHK他)の取材協力など、幅広く活動する。
書籍:『確実内定』(KADOKAWA)『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)『恋愛障害』(光文社)
過去出演番組:『おしゃべりオジサンとヤバイ女』(テレビ東京系)『最上もがのもがマガ!』『Wの悲喜劇』(AbemaTV)
Twitter:@10anj10